ARTWORKS

偶然性は必要か

私は、制作において基本的には、『偶然性』に頼るべきではないと考えます。勿論、コンピュータで画像編集する際に、レイヤー加工で偶然に面白い効果が出たりすることはよくあります。また描く過程において、絵の具の重ね方によって思わぬ効果が出たり、そのような発見は大切にしなければなりません。

しかし、例えば『何を描くのか、どのように描くのか』といった制作の根幹に関わる事を偶然性に委ねることは私はしません。

何を描くのかわからないまま、作品を制作した事があります。何となく雰囲気は出るのですが、行き詰まるとそれ以上描けないことになってしまいます。

抽象的な思わせぶりな作品がありますが、そういった作品は、誰でも作れます。

私にとって芸術は、自分の世界観を構想し、物質によって構築することだと思っています。

例えばジャクソン ポロックという作家が描く絵画は、アクションペインティングと言われ、絵の具を垂らして作品を作ります。偶然性に依存した作品に思われますが、実は違います。

ポロックは床に置いたキャンバスに絵の具を滴らせる「ドリッピング」、流し込む「ポーリング」という技法を確立させました。

一見無秩序に見えるこれらの技法は、実際には一定のリズムで描かれています。

意識的に絵の具の垂れる量や位置を完璧にコントロールし、筆は筆としてではなく棒として用いているとポロック自身が語っています。

ポロックは、アルコール依存症でしたが、偶然性には依存していません。

ポロックのアクションペインティングはどの箇所を切り取っても均一に描かれ、中心と周縁、焦点の差がないのが大きな特徴です。

この様式をオール・オーヴァーと呼びます。

またポロックのアクションペインティングという手法は、シュールリアリズムの作家達が試みたオートマティスム(自動記述法)と呼ばれるフロイトの精神分析をもとにして、既成概念や理性に囚われず無意識下で作り出された芸術表現から派生しています。

ジャクソン ポロックという作家は、歴史的な必然性の元に出現した作家であると言えます。

偶然性を制作において、完全に排除することはできませんが、コントロールすることは可能だと思います。

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