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絵画のドキュメンタリー性について 〜続き

日本でドキュメンタリー性のある絵画と言えば、第二次世界大戦において描かれた『戦争画』である。

日本の戦争画は、ゴヤやピカソの作品と比べると、個々の作家によって違いはあるが、大曲的に見るならば幾つかの相違点が見られる。

一番大きな違いは、日本の戦争画は、プロパガンダ的な要素があったということである。そもそも、日本政府主導の下、軍の宣伝や国民の戦闘心を鼓舞するために「大東亜戦争作戦記録画」として陸軍美術協会が戦争画を量産させた。戦争画は終戦までに約5000点制作されたと言われている。

戦争画を描いた作家として、藤田嗣治、宮本三郎、小磯良平、中村研一らが挙げられる。

中でも藤田嗣治の卓越した描写力は、際立っていました。「アッツ島玉砕」は特に有名な作品です。

「アッツ島玉砕」藤田嗣治
「山下、パーシバル両司令官会見図」宮本三郎
「南京中華門の戦蹄」小磯良平
「コタ・バル」中村研一

戦時中、西洋の風景や風俗を描いた作品は敵国賛美のものとして扱われていたため、画家たちは表現する題材を見つけることが難しい状況にありました。

軍は「国家総動員法」を掲げ、国のためとして戦争賛美をテーマとした絵画を制作するよう画家たちに命じたのです。

軍の命令に背くことは非国民として検挙される恐れがあったため並大抵のことではありません。敗戦し戦争が終わると戦争画はプロパガンダと捉えられることになりました。

GHQが153点の戦争画を押収したことで、戦争画という作品そのものに批判が集中します。

戦後の価値観の変化により、戦争画家として名声を高めた藤田嗣治は日本画壇から批判され、スケープゴートとして日本から追放されます。「絵描きは絵だけ描いてください。仲間げんかをしないで下さい。日本画壇は早く世界的水準になって下さい」と言い残し、フランスに渡った後、日本の地を踏むことは二度とありませんでした。

戦争画の多くは戦後GHQから接収されアメリカに渡りましたが、1970年に日本に無期限貸与という形で返還されました。

東京国立近代美術館では返還された戦争画約150点を修復し、「MOMATコレクション」と呼ばれる常設展示室で展示しています。

「山下、パーシバル両司令官会見図」「アッツ島玉砕」などが鑑賞可能です。

戦争画について語ることは、日本ではタブーとされているというのが、私自身感じることです。

それほど、敗戦という現実は日本人にとっては大きな爪痕を残したと言えます。

戦争画について、私の個人的な考えを書かせて頂きます。戦争画は国民の戦意高揚のために描かれたので、プロパガンダに過ぎないという見方は、余りにも偏狭過ぎると思います。作品を一点一点見ると、作家の技量や感性が色濃く出ていることに気付かされます。

単なる戦争賛美ではなく、そこには「戦争」という現実を受け入れながらも、戦いへの焦燥感ややりきれない気持ちが描かれていると共に、作品に込められた作家の熱量が激しく燃え盛っているのです。もし自分が同じような境遇に至った時、彼らのような表現ができたであろうかと考えさせられます。

ゴヤやピカソの作品には、日本人の戦争画にはない個人的な物の見方があります。彼らは軍に強制的に描かされたのではなく、自由意思によって作品を作りました。これが決定的に異なる点だと思います’。またキリスト教という一神教が支配する西欧諸国では、徹底的な個人主義が基調にあるのだと思います。地続きの大陸で常に隣国の影響を受けやすい西欧諸国は古代から戦争が頻繁に行われたこともあり、戦争を主題とする絵画について、寛容な見方のできる国民性があると思います。日本は、国内では権力争いがありましたが、島国であることから他国からの侵略を受けることが、元寇以外ほとんどありませんでした。明治維新を経て、近代化してから、日清戦争、日中戦争、日露戦争で連勝し列強国の仲間入りをした日本は、第二次世界大戦での敗戦によって、戦争に対する大きなトラウマができたのではないでしょうか。それはややもすると現実を見ようとしない、世界では当たり前の国防についての思考の欠落があるように思います。

私の作品についてですが、やはり表現の稚拙な部分や題材を消化し切れていないところがあります。ですが、戦争をテーマにした写実的な作品は、審査員の方々には奇異なものに見えたかもしれません。私はこの作品に「2022」というタイトルをつけました。この作品は戦争賛美でも戦争反対でもなく、2022年に起こったトピックとして現実を描くことが主眼です。私としては、入選して作品のドキュメンタリー性について問いたい気持ちがありました。ですから落選したことよりも、そのような場が無くなったことが何より残念です。これから先、戦争画を描くことはないと思いますが、絵画のドキュメンタリー性については深く掘り下げていきたいと思います。

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